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〜千億の彼方より〜 わさび伝説

●天正17年(1589)夏・鷹(岩木山)

朝早くから燦燦と輝く太陽に抜けるような青空が広がり、正に盛夏を思わせる日、我ら二人は鷹狩りに出かけた。
しかし、狩りの道具は鷹が留まる革手と革の肩当てだけ。
二人の馬を駆けさす姿に気づく者もあまり無く、我らは山に入った。途中の山小屋で、先に行かせた小物に馬を任せ、そこから先は徒歩で上を目指す。

「ワサビ、約束じゃ。あの時見たことの意味を教えてくれ。」
岩木山の木々から発散される気持ちよい自然の気も味わうゆとりも無く、私は矢も立てもたまらず先日の話を持ち出す。
「お話しは先の通り。私たちは秀吉様に会いに行くのです。それが津輕の生き残る道でしょう。」
「とぼけるでない。私が聞きたいのは、秀吉殿の後ろにあった、黒い影のようなものだ。」
私はワサビを睨みつるように見た。
「よいか、ワサビ、あの時お前は私の腕の中で震えておった。そのようなお前を見たのはあれが初めてだ。
あれが何であれ、お前にとって非常に良くないもということは判っておる。
何度も言うが、私はお前が心配なのだ。そう、私などより遥かに強い力を持っているお前がね。それでも心配なのだよ。」
不安に駆られワサビを抱きしめんばかりに心配する私に、ついにワサビは話し始める。それは以前にもまして奇異で恐ろしい話しであった。

「祐光様、私の故郷はとても遠いところであると、前にお話しいたしました。」
「そうじゃ、お前は遥か彼方より虚空を超えて来たといっておった。私はお前を信じ、お前の言葉を信じた。その結果お前が生まれ出ところは彼岸の果てだったと考えておる。そしてこの地へ長い時をかけ、たどり着いた。」
「そうです。しかし私はただ旅をして、ここにたどり着いたわけではありません。わたしは逃げてきたのです。」
「なんと、逃げてきたと申すか!?」
この者を追えるものがあるのだろうか?それにワサビが恐れるものなどあろうか?ワサビが罪を犯したとは到底思えぬ。ならば一体何者に追われているというのだろう?私は深く考え込んでしまった。
「祐光様、逃げてきたといっても、私は罪を犯し逃げたのではありません。」
そんな私の心を見透かしたようにワサビは言葉を重ねる。
「私の国はこのように生き物が多いところではありません。人は他者を尊重し、生き物は他の領分を侵さぬよう、ひっそりと穏やかに生きており、とても美しく戦のない国でありました。」
「ワサビよ。それをこの国ではあの世と云い、彼岸と云ううのだ。その地は極楽浄土なのであろう。」
「そうですね。この星はあまりにも生き物が多く互いに喰らいあわねば生きていかない定めのようです。それに比べれば私の故郷は正に天国のようなところかも知れません。私たちは長いときをかけ、互いに言葉よりも、心を使い意識の伝達を行うようになりました。それは、まさに優しさに溢れた極楽浄土なのでしょう。
しかし、そんな私たちの国にも大きな異変が訪れました。私たちは未曾有の天変地異が襲いました。それは避けられぬカタストロフィでついに移住を余儀なくされました。何年も、何年も協議を重ね、ついに巨大な船を建造しました。そして、星のすべての生き物とともに遥か遠いところに有る安住の地を目指し旅をしたのです。その旅の途中で彼らにあったのです。」

そうだ、この話しはワサビに会い、初めて為信様の城に連れて行かれた日の話しだ。あのときのワサビのすべてを拒否するような顔をみてその後何も聞けなくなってしまっていた。しかし、絶えず気にかけていたのだ。
「彼ら?彼らとは、何者ぞ。」
ワサビの不安げな青白い顔に気づき私の語調はつい強くなってしまった。
「祐光様、私たちはよく心で話し合います。この力によって他の動物などとも意思の疎通が可能で有ることはもうお分かりかと存じます。
我々は長い年月にわたり、様々な動物・種族と遭遇してきましたが、今まで必ずと云ってよいほど、互いを友とし、また利害が合わぬものにはお互い傷つきあわぬようにして、話し合いで解決してきました。
しかし、最後の旅の途中で出会ったものたちは、私たちが相手の心を理解できるから、そして相手もまた同じ能力を持っていたからこそ、大きな不幸が訪れました。
私たちは互いに解ってしまったのでした。お互いがお互いが理解できず、絶対に相容れることのできない者同士だということが。彼らは私たちと同じような長い時間をかけ、同じような心の文化圏を作り上げました。同じ力を持ったもの同士だからこそ、初めて遭遇したときにすべてがお互いを理解したのです。そして、その者たちは私たちより強力でした。そして、あまりにも邪悪でした。まだ、私たちの故郷であれば何とか防げたかも知れません。しかし、故郷を追われた私たちは彼らに打ち勝つ力はありませんでした。私たちの種族の放射した精神波を追って彼らは現れ、出合った瞬間に私たちは攻撃に遭い、種族の十分の一を一瞬にして失ったのです。」
「なんと、種族の十分の一とな。」なんと凄まじいことであろうか。この津輕の民だけでも、いや我が軍が秀吉殿の軍勢ともし戦になったとしても一瞬で十分の一を失うことなどあるのだろうか?いや、秀吉殿は十万の軍勢を持つと聞く。ならば可能かも知れぬ。しかし、ワサビのような特別な力を持つ種族を一瞬にして壊滅状態にできる種族とはどんな軍勢なのであろうか?にわかには信じがたい話を聞かされ、私は言葉を失った。
「この星で云う、地獄の業火の中を私たち生き残ったものは懸命に精神を集中させ、逃げることに専念し、絶対悪と対決する為に体制を建て直すべく別天地を探す羽目になったのです。しかし、彼らはどこにでもやってきた。私達は、この星の時間では測りがたい、果てしない時を彼らと戦ってきたのです。」
「なんと、信じがたく、恐ろしい話よ。そして、お前は我が星へと逃げ来たり、それを追って彼らもまたこの星へ来たと申すか?それが、秀吉殿の背後の小さい影だと!」
「いいえ、必ずしもそうではありません。ただ、あまりにもあの影の発する波動が彼らのものと似ていたので驚いてしまったのです。」
「ならば何といたす。」
「ビジョンは秀吉様に合うことを示してくれました。それが津輕が平和になる道ということです。
ですから私たちは秀吉様のもとへ参りましょう。それに、波動が似ていたといってもよく考えればあまりにも発するパワーが小さかった。彼らなのか?この星にも彼らのような種族がまた住まうものなのか?私はそれをつきとめねばなりません。」
「判った。共に参り、共にその者正体をつきとめよう。
したが、ワサビ、もしお前と似た力があるとしたら、もうまいんどとりっぷは避けたほうが良いのではないか?
下手をすると我々がおこなってきたことが秀吉殿に判ってしまう。」
「私もそう思います。ビジョンにより、秀吉様と会うのは来年と判っております。それまでは力の行使を控えましょう。」
この後、我ら二人は一羽の見事な鷹を連れて為信様のもとに帰った。

Legend of WaSaBI
to be continue ⇒ 08-1590 旅・遭遇
津軽の命運をかけ、為信一行は一路京を目指す。
京まであと一昼夜、ことこれで成就、というときに彼らは恐ろしい敵に遭遇する。
エピソードは一気に佳境に!!
 00. Prologue  01. 弘 前  02. 東日流霊異神記
1585 岩木山百沢
03. 東日流霊異神記
1585 大浦城(弘前付近)
04. 東日流霊異神記
1585 大浦城 その2
05. 東日流霊異神記
1589 春・ビジョン
06. 東日流霊異神記
1589 春・ビジョン 2
07. 東日流霊異神記
1589 夏・鷹
08. 東日流霊異神記
1590 旅・遭遇